【2020春…新たなスタート③】東大入学の大越遥平さん 叔父に刺激受け「社会に貢献できる人に」

野球を通して、学んだことがある。その思いを胸に、この春、新たなスタートを切る新潟の<野球人>を3人紹介する。

3人目は新潟高校野球部OBの大越遥平さん(19)。この春、1年間の浪人の末に文系の最高峰である東京大学文科一類に合格した。新潟高校では3年間野球を続け、3年夏には背番号13を付けベンチ入り。4回戦で優勝候補の日本文理高校を破り、ベスト8入りしたチームを陰で支えた。「仲間と一緒に試行錯誤しながら前に進むことができた」と野球部時代を振り返る。叔父はNHKキャスターで、新潟高校と東大のエースとして活躍した大越健介さん。叔父に刺激を受け、同じ東大に入学した大越さんは「社会に貢献できる人になりたい」と誓っている。

今春、東大に入学した大越遥平さん(左)
報告を受けた恩師の新潟・後藤桂太監督も合格を喜んだ(3月中旬撮影)

3月中旬、母校の新潟高校に合格報告に訪れた大越さんを、後藤桂太監督が笑顔で出迎えた。

「とにかく、努力の人。運動能力的には他の部員よりも劣っていましたが、それでも諦めない。一度たりとも手を抜かない、コツコツと自分を高める努力をしていました」・・・後藤監督が教え子をこう評した。

大越さんは野球部時代の3年間を笑顔で振り返った。

「仲間に恵まれました。“前向きな”仲間たちと一緒に野球をできたのが楽しかった」


2018年夏の新潟大会でベスト8に進出した新潟高校(前から2列目・右から2人目が大越さん)

大越さんが野球を始めたのは小学2年生の時。2歳年上の兄で2016年に新潟高校の主将を務めた篤甫さん(現・慶大)の影響だった。

入学した新潟高校では、なかなかレギュラーの座を勝ち取れなかった。しかし「冬場には誰よりもバットを振り込んでいた。気持ちの強さは他の選手にはないくらい。とにかく頑張る選手だった」(後藤監督)という努力で、最後の夏には背番号「13」を勝ち取ってベンチ入りした。

試合では一塁コーチとして打席の仲間にアドバイスを送った。

夏の新潟大会4回戦では、優勝候補筆頭だった日本文理高校と対戦。鈴木裕太投手(ヤクルト)、新谷晴投手(上武大)といった好投手や相手の強力打線を「試合前に徹底的に研究した」という大越さんたちは、5対3で勝利した。

「あの試合で“準備の大切さ”を学びました。仲間みんなが前向きで、『上を目指そう』という妥協のないチーム。それが日本文理を破ってベスト8に行った結果につながったと思います」

2018年夏、日本文理を破った新潟ナイン

新潟高校は準々決勝で新発田高校に敗れたものの、ベスト8に進出した。

「最後となった新発田戦では、エコスタ(ハードオフ・エコスタジアム)で7回の攻撃時の応援歌『丈夫(ますらお)』を聞くことができました。一塁コーチとして立っていた時に、自分の背中から物凄い声が響いてきて、震えました」

目指してきた甲子園出場は叶わなかったものの、大越さんは「多くのことを学ぶことができた高校野球生活でした」と振り返る。

高校3年夏の大越さん 一塁コーチとしてチームの快進撃を支えた

大越さんが東京大学に進学したいと考えるようになったのは、高校2年の頃だった。

「東大では2年間の教養課程を経て、自分の進路を選ぶことができます。ある程度学んでから、進路を選択できるところに魅力を感じました」

そしてもうひとつ、大越さんが東大を志望した理由がある。

「高校時代に野球であまり活躍できなかったことです。東大に入ったら野球部に入って、もう一度挑戦したい、という気持ちが浪人生活の心の支えでした」

大越さんの叔父はNHKキャスターの大越健介さん。新潟高校から東大野球部に入り、エースとして神宮で8勝を挙げた名選手としても知られる。

「叔父から野球に関して何かを言われたことはありませんが、身近な“すごい存在”として、目標というか、常に意識はありました。報道の仕事で社会に貢献している・・・同じ職業を目指すという訳ではありませんが、自分自身も叔父のように『何らかの形で社会に貢献できる人になりたい』とずっと考えてきました」


叔父でNHKキャスターの大越健介さん(2016年7月)

そして今春、大越さんは見事に第一志望だった東大文一に合格した。「叔父からは父親を通して『おめでとう』と祝福されました」と笑顔を見せる。

新潟高校から東京大学野球部に入部することになれば、大越健介さん(1985年・東大卒)以降、成澤良さん(2004年・東大卒)以来のこと。新潟県内の高校出身者では長岡高校出身の木曽耕一さん(2005年・東大卒)以来となる。

後藤監督は「もし野球部に入ることになったら、すごいことだとワクワクはしています。ただ東大といえども、今年は甲子園に出場した選手が入部するなどレベルは高い。本人次第ではありますが、もし入部すればいろいろな形でチームに貢献してくれるはずだと思っています」と語る。

周囲も「神宮で36年ぶりとなる『東大・大越』の復活か」と期待を寄せるが・・・大越さん本人は慎重に言葉を選ぶ。

「浪人時代は野球部に入ることを心の支えに頑張ってきましたが、大学に入った以上、勉強はしっかりやらなければと考えるようになりました。教授陣や周りの学生のレベルも高く、将来を考えた時に勉強は疎かにできません。野球部に入るかどうかは今はわかりませんが、学業第一でしっかり生活しようと思っています。入学した後、実際に野球部の練習を見に行くつもりです。そこで両立できるかどうかを考えて決めたいと思います」

大越さんと同様に大学合格を決めたチームメイトが後藤監督に報告。左端は信州大医学部に入学した木村竜晟さん。右から2人目は筑波大に入学した桐本貫太さん(取材は3月中旬

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、残念ながら入学式はなくなり、東大野球部の新入生練習会は中止となった。大越さんが希望する練習見学はまだ先になるが、授業はオンラインで20日から始まる。待ちに待った大学生活がスタートする。

仲間たちと甲子園を目指し、高校野球に没頭した3年間。大越さんはひたすら努力を続けることで、仲間たちに力を与え続けた。悩みながらも力をつけ、そして目標のひとつであった大学入学を果たした。

「高校野球を頑張ってきて、よかった。努力して、うまくいくことも、うまくいかないこともありましたが、仲間と一緒に試行錯誤をして前に進むことができました。今は将来についてはまだ決まっていませんが、それを決めるためにこれから始まる2年間の教養課程生活を大事にしたいと思っています」

(取材・撮影・文/岡田浩人 撮影/嶋田健一)