【高校野球】低反発バット、野球人口減少…野球界の変化について仙台育英・須江航監督に聞く

2022年の夏の甲子園で東北勢初の優勝を果たした仙台育英の須江航監督(41歳)が、このほど練習試合のため5年ぶりに新潟県を訪れた。今春から高校野球に導入された新基準バット、いわゆる低反発バットへの対応や、全国で進む野球人口減少についての考え方など、新潟県にも通ずる高校野球を取り巻く環境の変化について、須江監督の考えを聞いた。

5年ぶりに新潟県を訪れた仙台育英・須江航監督

Q今春から導入された新基準バット、いわゆる低反発バットについて、どのように分析していますか。
須江監督「『飛ばなくなった』のではなく『芯が狭くなった』というのが正しい表現です。飛ばないバットというのは間違いで、芯を食えば飛びます。だから技術力が求められます。緩い球は芯を食えますが、速球やキレのある変化球を芯に当てる本当の技術力を身につけられるバットで、僕は(導入について)賛成です。やはり初年度なので手探りでしたが、私の中では一つの答えが出ました。『安易に小さい野球に傾いてはいけない』ということです。かつて(社会人野球の)都市対抗野球大会が金属バットから木製バットに変わった時と一緒で、結局は慣れていきます。今の高校3年生は去年秋の終わりから今年の夏まで、このバットを1年も使っていない訳です。しかし今の高校1年生の世代は入学した時からこのバットなのでしっかり練習すれば慣れます。ですから小さい野球を選択したチームは最後に、結論としては置いていかれると思います。今までと変わらずフィジカルをしっかり鍛え上げていくこと、バットをしっかりスイングしていくこと、打席の中のスイングスピードが落ちないような訓練をすること、そして戦術・戦略を磨くという、バランスのいい指導が求められると思います」

Q2022年夏の甲子園で初優勝し、優勝旗が初めて白河の関を越えました。宮城県や東北地区の野球は何か変わりましたか。
須江監督「あの年のウチは弱かったんです。前の年(2021年)は強かったのですが、直前にケガ人が複数出てベストメンバーを組めませんでした。2022年のチームは秋も春も練習試合も負け続けて、手応えを感じたのは6月の半ば。投手が揃ってきて、それなりに勝負になるのではと思えたのが夏の大会まで1か月を切ってから。だから『あの年の仙台育英が甲子園で優勝できるのなら、ウチも行ける』と本当に皆さんが思ってくれました。優勝後の秋の県大会抽選会で各校の主将を前に私が聞きました。『仙台育英が優勝すると思っていた人はいますか?』と。誰も手を挙げませんでした。でも優勝できた。『だからどこも優勝できる可能性はあるんじゃないの』と話をしたら皆頷いていました。手前味噌かもしれませんが、そこから県内のレベルが上がったと思います。僕らに向かってくる雰囲気が変わりました。倒してやる、自分たちもやれる…というふうに。今年の夏の宮城大会決勝でウチに勝った聖和学園は、春はウチがコールド勝ちしていましたが、夏の過程の中で『仙台育英に勝てない』という空気はありませんでした。勝てる可能性があると思いながら戦えることは大切なこと。それが僕らの優勝で、ちょっと大袈裟かもしれませんが『不可能はない』と根づきました。東北のレベルは上がったと思います。ウチが2022年に優勝した夏はベスト4に聖光学院が進出しました。去年23年夏はウチが準優勝で八戸学院光星と花巻東がベスト8。そして今年の夏は青森山田がベスト4で、3年連続でベスト4に東北地区の学校が残るというのは今までなかったこと。波及している印象はあります」

Q新潟県を含め全国的に野球人口が減っていることが課題になっています。野球をやる子どもたちが少しでも増えるためにはどうしたらいいでしょうか。
須江監督「競技人口を増やすために、野球教室を開催するとか、そういう安易なことではなく、もう少し根底から考えなければならないと思います。つまり“入り口”の段階からの話なので、組織立っていろいろなことをやらなければいけません。本当の意味で少年野球の入り口…ウチの息子が小学4年生で娘が1年生なのですが、そのあたりの年代の子に対する、少し大げさに言うと“コンサルティング”みたいなものが必要だと思います。結局、親の負担が大きいとか、練習が厳しすぎる、とか、その逆の場合もありますが、練習量だけでなく、チーム運営についても親の負担が大き過ぎることについて、きちっとチェックして評価し改善をかける人間が必要。そういうコンサルティングのような組織やコミュニティを立ち上げなければ、今は地域の感性や感覚だけでやっているだけなので、なかなか野球人口は増えないと思います」
「それから野球をすることによるメリットをもっと具体的に示していかなければいけません。僕は野球をするメリットは…表現は難しいですが、たとえば僕は小学生で(野球をすることが)終わっても構わないと思っています。野球は運動技能のほぼすべてを必要とする難しい競技なんです。走る、打つ、投げる、捕る、という運動技能で最も筋肉の数を使います。ですから野球を始めると中学校からサッカー、バスケットボール、バレーボール、バドミントン、ハンドボール…何をやってもできますよ、というスポーツの“入り口”としていい。それが子どものうちから野球に特化し過ぎて、勝つことばかりを追いかけることは間違いだと思います。『野球をやるとどんないいことがありますか?』という問いに、今みたいな話を理解してもらえれば野球を始められると思います。野球を入り口にして、続けてもいいし、やめてもいいし、という形です。そういう可能性があるスポーツだと思います」

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(取材・撮影・文/岡田浩人)