ズバーンという音が室内練習場に鳴り響く。
重いストレートがミットにおさまると「ヨッシャ」と思わず声が出る。
「1年目の去年は悔しいシーズンだったので、今シーズンこそ結果を出したいんです」
江村知大(ともひろ)投手、23歳。
早稲田大学を卒業した去年春、バイタルネットに入社。
背番号18を背負う、期待の若手ピッチャーだ。
重いストレートを投げ込む江村投手
長野県との県境にある津南町出身。冬は3メートルの雪に覆われる豪雪地だ。
津南中時代はエースとして郡市大会で優勝した経験があり、生徒会長も務めていたことから「文武両道で甲子園に出場経験もある公立高校に行きたかった」と50キロ離れた長岡市の長岡高校に進学した。
津南町から長岡市までは電車を使って片道約2時間。朝5時半には家を出て、実家の新聞配達を手伝いながら、そのまま電車に乗ったという。放課後の練習も限られた時間の中、6時過ぎには練習をやめ、急いで着替えて駅に向かった。
「一度つらくて辞めようと思ったんですが、仲間にピッチャーはお前しかいない、と励まされて3年間続けられました」
高校2年の夏には、4回戦で優勝候補の新潟明訓と対戦。当時同じ2年生だった永井剛投手(現HONDA)と投げ合い、息詰まる投手戦を繰り広げるも1-2で惜敗。3年の夏は第2シードの村上桜ヶ丘に2-3で敗れ、甲子園出場はならなかった。
「甲子園の目標が断たれた後、次は神宮で投げようと思いました」
早稲田大学に進学後、硬式野球部に入部。1学年上には斎藤佑樹(現日本ハム)、福井優也(現広島)、大石達也(現西武)の3投手がいた。先輩から刺激を受けまがら成長。4年春には背番号15を付け、念願だった神宮球場で六大学リーグ戦にも登板した。
「早稲田の4年間で、合計8人がNPBからドラフト指名され、プロ野球選手になりました。そういう選手たちを間近で見て色々なことを吸収できました。特に斎藤さんからは対バッターの駆け引きやピッチングの組み立てを学びました。4年間、早稲田大学の野球部で過ごしたことは僕の誇りです」
「地元に恩返しがしたかった」と卒業後は新潟市の社会人野球チーム・バイタルネットに入社。
日本ハムに入団した谷元圭介投手が背負っていた背番号18を与えられた。チームの期待の表れだった。
しかし、1年目の去年は春のキャンプ入り直前に首を痛めてしまい、出足からつまづいてしまった。本格的に投球ができるようになった頃には秋になっていた。
「試合の時もずっとネット裏でビデオ撮影係で・・・期待されていたのに貢献できずに悔しかった」
迎えた2年目の今シーズン。
けがの再発防止に細心の注意を払い、練習後のケアも十分にしてきた。ここまで順調に来ている。
新潟市西区の室内練習場で、身長175センチ、体重80キロのがっしりとした体から、140キロ台のストレートを投げ込んでいる。
チーム待望の右の本格派の成長に、三富一彦監督も「エース候補です」と大きな期待を寄せる。
まずは4月4日からの今季初の公式戦・静岡大会で先発の柱として結果を残すことを目指す。
「夢はNPBに入ってプロのマウンドで投げること。斎藤さんや福井さん、大石さん、そのほか同じ早稲田からプロ入りした人たちと勝負するのが目標です。そのためにも今シーズンの都市対抗、日本選手権で結果を残したいんです」
3月13日からは宮城キャンプが始まる。オープン戦も控えていて、実戦での結果が求められる。
「去年はチームに迷惑をかけた。ことしは自分が投手陣を引っ張るつもり」。期待の2年目右腕は決意を込めて力強く語った。
(取材・文/岡田浩人)