新潟県高野連は18日、今春の県大会で導入を予定していた投手の「球数制限」について、実施を見送ることを発表した。日本高野連から先月、「再考」を求められたことに応じた形で、日本高野連が新たに設置する「投手の障害予防に関する有識者会議」に新潟県高野連から富樫信浩会長が参加することも併せて発表された。同日夕方、新潟市で取材に応じた富樫会長は「球数制限という取り組みを受け入れてもらえなかったことは残念」としながらも、「大事なのはスポーツマンシップ。有識者会議で議論を前に進めていこうという考え方は非常にありがたい。私どもの主張や考え方も有識者会議で反映できると前向きにとらえた」と話し、今後の議論の行方に期待を寄せた。同時に新潟県高野連として4月に指導者のための「スポーツマンシップ研修会」を実施する考えも明らかにした。
球数制限の導入見送りについて取材に応じる新潟県高野連・富樫信浩会長
新潟県高野連は去年12月に新潟市で開催された「NIIGATA野球サミット」の中で、投手の障害予防などの観点から、春の県大会に限って投手の投球数の上限を100球とする「球数制限」を導入すると発表。実施されれば全国初の取り組みとなり、注目を集めた。プロ野球・DeNAの筒香嘉智選手やスポーツ庁の鈴木大地長官が賛意を示す中で、日本高野連は先月20日、「全国一律のルール化が望ましい」とし、新潟県高野連に「再考を求める」と要請していた。
新潟県高野連は今月15日、新潟市で会長、専務理事、常務理事の計5人が集まった臨時の会合を開き、今春の球数制限導入を見送る方針を決め、役員などの了承を得たという。各校に既に配布した春の県大会の開催要項から「一人の投手の投球数は100球まで。なお100球に達した場合でもそのイニングを終了するまでは投球できるものとする」という項目を削除する。また日本高野連が設置する「投手の障害予防に関する有識者会議」に富樫信浩会長が参加する。
新潟県高野連は日本高野連に文書で回答。18日に正式発表し、富樫会長が報道陣の取材に応じた。
◎富樫会長との主な一問一答は以下の通り◎
Q今回の「撤回」を受けた今の心境は
富樫会長(以下富樫)「撤回とは考えていない。あくまで『見送り』。日本高野連から再考を申し入れられ、『春からはやらないで欲しい』という意味と受け取り、そこについては致し方ない。我々は(球数制限は)『取り組み』と考えていた。そこのスタンスの違いはあったと思う」
Q具体的にどんな議論があったのか
富樫「日本高野連の理事会の決定を受け、それについてどうするかを(杵鞭義孝)専務理事と話しをした。本県の場合(球数制限を)機関決定をしている。その手続きはしっかり踏まなければならないと考えた。入試の日程などを勘案しながら事務手続きを進めた」
Q率直に残念という気持ちか
富樫「残念というか、球数制限そのものについては我々の取り組みを受け入れてもらえなかったということは残念とは思うが、むしろ球数制限だけがクローズアップされているが、我々の真意はそこだけではない。様々な議論に発展していくことも1つのテーマ。最終的にはスポーツマンシップ。球数制限は1つの現象ととらえている。そこの議論が深まればいい」
Q100球と定めた意図は
富樫「1試合の球数制限ということで医学的な根拠はない。目安として100球の線を出した」
Q有識者会議の参加について
富樫「意見反映ができる、その機会を与えられたことは新潟県高野連としてはありがたいと思っている。私らとしては前向きにとらえていこうと」
Q今回の決定を受け、県内の指導者からの声は
富樫「私のところには直接届いていないが事務局には届くだろうと。加盟校には本日連絡をさせていただいた」
Q有識者会議の議論の内容は
富樫「まだ雲を掴むような話。日本高野連として1年後の答申と期限を切っているので、そこまで精力的にやっていかなければならないと思っている」
Q球数制限についてはそこで訴えていくのか
富樫「球数制限だけではない。様々な問題がある。もちろん球数制限も1つの方策だが、トーナメント制のあり方、大会日程の過密さ、ベンチ入りの人数…都道府県によってまちまちな部分もあり、その辺も踏まえて議論しなければ。各県の事情もある。全て統一するのがいいかどうか。そういう中で1つの方向性が有識者会議で見ていければ」
Q来年度(4月以降)の春夏秋の大会での変化は考えにくいのか
富樫「本県は夏秋は球数制限をやるという話ではない。春の大会に限りやりたいという話だったが、サンプルを取り、数年かけてデータ化して、1つの指針ができればいいと考えていた」
Q改めて断念した理由は
富樫「断念ではないが…我々が一番に考えているのは、プレーヤーの将来が大事という視点での球数制限が1つの方法だった。日本高野連から再考してくれという話があったので…有識者会議で議論を前に進めていこうという考え方は非常にありがたい。私どもの主張や考え方も有識者会議で反映できると前向きにとらえた中での春の大会の球数制限見送りという結論になった。再考せざるを得ないという意見が大半だった」
Q著名人や高校野球関係者からの期待もあったが
富樫「応援いただいたことは大変ありがたく思っている。私たちとしては勇気をいただいたし、今後取り組む上でありがたい応援だった。見送りをしたことで『残念』というコメントをしている方もいるが、私たちとしては1つだけとらえれば残念だが、そうではない、私たちが目指しているのは体の故障だけではなく、心の問題…スポーツマンシップというところに議論が行くこと、そこを見ての球数制限だった。例えばファウル打ちをしたらどうなるんだというのは大人の視点の考え方の論調もあったが、それこそ次元の違う話。ファウル打ちなどはスポーツマンシップにもとる。そこをとらえ直して、メッセージを発することも大事なこと。今回の見送りについても(有識者会議で)そういう話もできる、前向きにとらえている」
新潟県高野連のある新潟東高校には大勢のメディアが集まった
Q自主的に(球数制限を)やるという判断はなかったか
富樫「日本高野連は『ルール』という立場。我々は『取り組み』と言っていたが、『全国一律でなければならない』という見解が出された時点で、我々は取り組みできない、と判断した。現場サイドがどう考えているかは、我々がどうこうする話ではない。そこはどのように各校の監督が判断するか、今後大会結果を見ればある程度わかるかなと思う」
Q有識者会議に参加するにあたり特別な機関を作って議論は
富樫「今のところはない。一番大事なのはスポーツマンシップ。そうしたことを我々も勉強しなければならない。4月18日に春の県大会の抽選会があるが、そこでスポーツマンシップの研修会をやろうと考えている。(対象は)本県の指導者。講師も決まっている」
Q去年12月からいろいろな反応があった
富樫「我々はここまでハレーションが起きるとは思っていなかった。ただ日本高野連に相談しなかったことは申し訳なかったと思っている。ただ、最初は批判的な記事も多かったが、ここにくるに連れて肯定的な論調もあったと思う。我々としてはブレずに、言い続けてきたことを言い続けていきたい」
Q新潟県高野連の後に学童や中学の大会などで球数制限の話が出てきたが
富樫「それは各団体で用意をされていたのでは。ウチがポンと言ったものだから、かえって申し訳なかった」
Q高校野球の外にある組織からは賛同がある一方、他の高野連組織から肯定的な意見がなかった。有識者会議の議論が新潟県にとって厳しい方向になる可能性もあるが
富樫「そうかもしれないが、我々はそこ(有識者会議)に誰が入るのかも分からない。今思っていることを訴え続けるしかない。日本高野連から勝負が第一義になり、我々は違うという話をしている。そもそも次元が違う。議論が噛み合う訳がない。そこを我々としては分かっていただけるように説明していく、それが大事なこと」
Q球数制限導入の表明から約3か月。準備してきたチームや生徒がいると思うが
富樫「当然、大会なので準備してきていると思う。そこを見送ったことについては大変申し訳なく思う。ただ、そうしたことを考えていく大切さ…指導者も含め、そういしたことをいい経験にしてほしい。これで野球が終わる訳ではない」
Q有識者会議にトップである会長が参加する判断は
富樫「今までのやってきた経緯、新潟県青少年野球団体協議会を立ち上げた本人でもあり、私が行って説明をし、新潟県の考え方を説明するのが筋だという判断」
Q一石を投じられたかなという気持ちは
富樫「一石は投じたとは思う。ただ、これで終わりではない。ここからが苦しいところ。私たちが言っているのは、球数制限は1つの現象。そればかりではない。マスコミは『球数制限』というが、本質は生徒の将来を考えること。生徒が『100球を超えても投げさせてくれ』という中、それを止めるのも大人の責務。そうしたことを指導者目線で行ってしまうと勝利第一主義になってしまう。そこを突き詰めて考えていってもらわないと、甲子園は今は華々しいが、いずれそっぽを向かれる時が来ると思う。そうならないために今どうするかを考えていくことが我々の役目。そういう考え方を新潟県の役員は共有している。だからこういう話ができた。そうでなければ会長1人でこんな話はできない。(新潟県青少年野球団体協議会で)何年も積み重ね、その上にこういう(球数制限の)話をしている。そこをマスコミには汲んでもらいたい。パワハラ、日大の問題、スポーツの根底を問い直す時期。今だからやらなければ、スポーツはいいものなのに、そうじゃなくなってしまう部分がある。そういう意味で有識者会議でそうした話もできるのかなと期待し出席したい」
◎富樫信浩会長の取材 全動画(約30分)◎
https://youtu.be/P6lfY70Ocaw
(取材・撮影・文/岡田浩人)
新潟が春に限り試行してサンプルを取るという姿勢を、「全国統一ルール」にすり替えた高野連の姿勢には残念でなりません。日本と米国・カナダの青少年の野球事情を息子を通じて見てきた者として、日本では青少年が野球を生涯にわたって楽しむ環境に無いことが何より残念です。日程、トーナメント方式等のインフラに加え、チームが勝つことに貢献することが青少年野球選手の目的となっている精神的・文化的風土など、本当に多くの課題があると思います。有識者会議で、1つでも課題を議論していただきたいです。
「100球」という数字について、参考までに米国とカナダ(オンタリオ州)のルールが出ているリンクをご紹介します。
米国:Yahooニュース「アメリカ高校野球、全ての州で投球数制限を規則化へ」2016/7/19
https://news.yahoo.co.jp/byline/kiyokotaniguchi/20160719-00060130/
カナダ・オンタリオ州 Baseball Ontario
Arm Care Solution: Approved rule change – 2020 season
https://www.baseballontario.com/filestore/htmleditattachedfiles/approved_arm_care_rule_changes2018-12-19t10-49-56v001_by_292.pdf